院長の自律神経失調症・パニック発作体験記

 自律神経失調症 

 パニック発作体験記 




頭痛、胃腸の不快感、不眠、不安感、パニック、倦怠感、ゆううつな気分・・・
経験者だからこそわかることがあります。



 きっかけになる出来事 



それは突然起こりました。

私が鍼灸の専門学校に通う前のこと。

整体の仕事をしていた私は、午前の仕事を終えて、午後は出張整体をしにいくため昼ごはんを食べに台所に行きました。



そこにはうずくまってじっと目を閉じている母がいました。



「どうしたの?」



声をかけて母の背中に手を当てると・・・ビッショリの汗をかいていました。

11月でトレーナーを着ているのに、服の上からシャワーを浴びたかのようでした。



「・・・背中が痛くて・・・」



しぼりだすように発した声でした。



「急に背中が痛くなって、吐き気がしたからさっきトイレでもどしたの・・・寒気もする・・・ちょっと背中をほぐしてくれない?」



普段病気に縁がない母がここまで苦しむことは異常でした。


「ほぐすじゃないよ!病院に行こう!連れていくから」



そう言っても「行かない」の一点張りでした。私の仕事に支障が出るのを嫌がったのです。


しかし、みるみる顔色が生気を失うのが見てとれたので、胸騒ぎが危険という確信に変わりました。



「あとでいくらでも怒っていいから、もう救急車を呼ぶよ!!」



そう言って救急車を呼びました。



やはり苦しかったのでしょう。安心したのか、電話を切るとほぼ同時に倒れこみ、うめき声をあげるようになりました。

意識ははっきりしていたので、ずっと付き添い励ましながら、母の容体を案じつつ救急車の到着を待ちました。



その日は祝日、救急指定病院に到着するや医師は



「ここでは対処できない。専門の病院に搬送してください」



と再度救急車を呼び直すことになりました。

そこでさらに時間がかかり母の意識は徐々に薄れていきました。



2件目の病院に到着すると、すぐに詳しい検査がおこなわれ、告げられたのが



「心筋梗塞」



幸いにも休日出勤していた医師が心臓の専門医。すぐに緊急手術が始まりました。


1時間後・・・



手術室から出てきた医師は



「無事に終わりました。ひとまず詰まった部分の処置は成功しました。99%詰まっていましたが、1%血液が流れている状態だったので助かりました。
ご家族が素早い対応をしたので良かったのですが、あと30分運ばれるのが遅かったら、お母さんは危なかったですよ」



そのような説明を受けていると、母がベッドに載せられ手術室から出てきました。
意識がはっきりと戻っていました。



「学ありがとう。背中の痛みが軽くなったよ」



そういって手を握り、少し笑顔を見せました。



母は一命を取りとめました。



元気な母が自分の目の前で倒れるショック、心筋梗塞で死の寸前であったこと、その徴候に気づけなかった自分。一人親の母を失うかもしれないという恐怖。



様々な思いが交錯した一日が終わりました。



それから集中治療室に入った母の世話、家事、仕事、専門学校の準備、全てを同時に行なう日々が始まりました。

集中治療室から一般病棟、退院へと順調に回復をしていきましたが、退院してからの体調不良は長く続きました。

体力の著しい低下をした母には安静にして長期の養生が必要でした。



春になり、私は鍼灸の専門学校へ通うことになっていました。

母の看病、生活費を確保するために整体の仕事を続け、家事を行い、学校へ通う。という生活を送りました。


午前中は12時まで整体の仕事

高速道路に乗って学校に着き1時~6時まで授業

高速道路で帰り、家事をこなし夜に整体の仕事

鍼灸の勉強を自宅で開始するのが夜12時頃。この時間が学業に一番没頭でき楽しい時でした。



睡眠時間は3~4時間という日々が9ヶ月続きました。



ゆるやかでしたが、母も回復していました。



だいぶ家事もできるようになり、少しずつ日常に穏やかな雰囲気が戻りつつありました。

手術した病院で、術後の経過をみる検査入院がおこなわれることになり、2泊3日の予定が組まれました。

ちょうどその時、私も学校の定期試験があり、いつもより睡眠時間が短くなっていましたが、母に付き添い病院に行っていました。



検査結果は「すこぶる順調!」



この報告を聞き二人喜んで家路に着きました。

順調に回復している安堵と生きている母、手術後初めてホッとした日でした。



 症状が起こった日 



・・・その夜に私に異変が起きたのです。



妙に息苦しい。

深呼吸をするのに、空気が入っている気がしない。

だんだん手足にしびれたような違和感が現れ・・・

言いようも無い焦りや不安に襲われる・・・


「もしかして呼吸ができなくなって死ぬ?」


そのような思いに支配されてきたのです。


焦りや不安はピークに達し、汗が止まらなく流れ、胸が締め付けられるような苦しさが続き、叫びたくなるような、ただただ死への恐怖しかありませんでした。



時刻は午前3時。



どうしようもなくなった私は、自分で救急車を呼んでいました。



救急病院に運ばれた私を診察した医師は、一言

「何か強烈なストレスでもあった?気分が落ち着く点滴するから、終わったら帰りなさい」



とだけ言い残して病室を出ました。



点滴を受けている間、この症状は何なのか・・・ストレスとどう関係があるのか・・・

これから自分はどうなるのか考え続け、薄暗い天井を見つめていました。

 

悩まされる毎日と原因解明 



それからです。



息苦しさが毎日起こり

頭痛が頻繁にあらわれ

集中力が低下し、意欲が低下する

体がひどくだるい

全身が緊張する

眠れない

急に不安になり手汗を異常にかく

死への恐怖からパニックに近い感情が突然おこる

便秘と下痢が不規則に起こる

ふらつく感覚


といった症状が出てきました。


特に救急車の音、テレビで病院の映像が流れると強くなりました。

 

また、どこか体の不調や痛みを感じると

 

「自分はガンになったのではないか?」

 

「何か大きな病気で死ぬのではないだろうか?」

 

という、言いようもない不安にのみ込まれることが多くなりました。

 


理由がよくわからなかった時に、ちょうど学校で心理学の授業があり、パニック障害に良く似た症状であることに気づきました。

心理学の専門教員に相談すると



「心療内科を受診しなさい。キミの症状はその分野だよ」



と教えてくれました。

心療内科を受診すると、医師は最初 すぐに病名を言いませんでしたが



「ストレスからきてますね。気分を楽にする薬と緊張をやわらげる薬、楽しい気分にする薬を出しましょう」

と処方されました。

薬の説明を読むと、安定剤、抗うつ剤、緊張緩和の薬でした。



確かに薬を飲むと一時的に気分が楽にはなります。

しかし薬が切れたら・・・また症状が出る・・・



症状が出ない時間が増えたことで勉強への影響が減り、非常に助かりました。

 

が、今度は薬が無くなることに不安を感じるようになってきました。

 

あと数日で薬が無くなる…と思うといてもたってもいられず、

病院に行くことばかり考えていました。



この状態がいつまでも続くのはつらい…

 

症状を改善するために、いま自分が勉強している鍼灸はどのように助けになるのだろう?

そう思って教員に相談しました。



すると教員はニコッと笑い


「そういう症状で苦しむ人のために鍼灸があるんだよ。鍼灸治療を受けていきなさい。そして自分で体験してください」


と言ってくれました。

それから、自律神経を整える定期的な鍼灸治療が始まりました。



鍼灸治療の始まり。回復への道のり 



半年・・・1年・・・

鍼灸を続けているうちに気づいたことがありました。



「薬を飲まなくても気分が良い日が増えてきた」

 

「1ヶ月分もらった薬を飲み切るのに、3ヶ月かかった」



そのことを心療内科の医師に報告すると



「回復していますから、薬を減らしましょう。どんどん間隔が伸ばせるなら伸ばしてください」と。


今では薬は必要なくなっています。


自分の体験を通して、ストレスが引き起こす様々な症状と辛さがわかりました。

自律神経の失調がもたらす生活への影響は非常に広範囲に及びます。



その苦しみはなかなか人に伝わらないことも。



私は鍼灸治療を受けて、自律神経失調に鍼灸がここまで役立つことを身をもって体感しました。



「同じ苦しみを経験している人に鍼灸・整体で回復の手助けをしたい!」



そのような思いで自律神経に対する施術を研究していきました。



学生時代から鍼灸治療の研究会に参加し、開業後は鍼灸の師匠である「松鶴堂」の院長先生のご指導を仰ぎ、現在ではたくさんの方が再び力を取り戻しています。

現在は鍼灸に整体を組み合わせ、心身の調整に取り組んでいます。

 

症状がしんどい時、具体的にどのようなことをして対処したのか、患者さんから聞かれることがあります。

施術中はお互いに体験を話し合いながら、身近にできる対処法やアドバイスをお伝えしています。

克服していかれた患者さんも増えてきて、自分の経験が無駄ではなかったと、今では自信をもってお答えしています。